3.作歌の基本

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推敲の仕方

「庭に咲く深紅の薔薇を切りてきてその一輪をお供へとせり」 (白嶺さん2002年10月30日) 母の祥月命日に、真っ赤に咲いている薔薇を供えました。母は薔薇と苧環が大好きでした。 この歌を読む限りにおいて、よく解りますし、これでいいと思えます。しかし、添え書きの趣旨を詠まれたものとすれば、物足りません。それは「母の祥月命日」が抜けているからです。これを入れることで歌がぐんと身近に、しかも深みを帯びま […]

推敲の仕方

「雲間より光りのシャワーが降り注ぎ見下ろす琵琶湖は輝きを増す」(ゆう子2002年9月24日)  歌は、伊吹山の標高1260メートル地点にある駐車場から周囲を見渡したときの感動で、とくに琵琶湖が予想以上近くに見え、傾いた日の漏れ陽をたまたま受けて光り輝く姿が見られて、得も言えぬ美しさだった。それを詠んだのだね。「光りのシャワー」と名詞で使うときは、たとえ口語新仮名でも「光」でいい。(他によく誤用され […]

歌の焦点

「稲田ではカルガモ放す無農薬家族の絆タフに伝わる」(夢子さん2002/09/20) 「タフ」がやや異様に目立ちますね。それに「タフな絆」と言うところを「絆」が「タフに伝わる」とされたのはどうしてでしょう。「タフだと思えるように伝わる」ということですか?それなら「タフな絆が伝わる」でいいですね。歌中のカルガモは害虫を食べてくれるのでしたね。つまり農薬の替わりにカルガモを使っているわけ。それによって稲 […]

歌の焦点

「歌ひとつ詠みたき梅雨の昼下がりよみきれぬまま何時かまどろむ」 (桐子さん2002/07/03) 前作に続いてこれもうまい。確かにこの歌では「ひとつ」がいいですね。歌というものがよく解ってきましたね。「よみきれぬまま」の「よみ」は漢字がいいでしょう。「詠みきれぬまま」。行為をはっきりさせるには漢字がいいですから。前に同じ文字がありますが、気にならないし、むしろそれを受けたことがはっきりしていいです […]

歌の焦点

「紫陽花をカメラに収むシルバーの淡き残り香われを魅了す」 (多祢子さん2002/06/26) 短歌は一首で対象の状況から言いたいことまで詠まなければなりません。主題は一つに絞ることが必要でしょう。  この歌だけから添え書きに言われていることを読み取るのは不可能ですね。「シルバー」とは、添え書きによれば初老のご婦人のことなのですね。それが解かっても、歌の前半と後半が意味的に繋がりません。こういう時は […]

歌の焦点

「五月吹く風の奏でる若夏の庭に集いて雀も憩う」 (きょうこさん2002/05/31) 色々と詠み込もうとして語の運びが少しぎこちないですね。短歌は詩と違って字数制限が厳しいですから、主として表現したいことに焦点を当てることが肝要。あとはそれが生きてくるように語を選ぶのです。 添削: 「五月尽風は初夏(はつなつ)運びつつ庭に雀らつどひて遊ぶ」 (きょうこ)

歌の焦点

「手をつなぎ歩きし我が子 学び舎へ見守られたる園あとにして」 (きよしさん2002/01/16) この歌、いつも手をつないだりしてまつわりついていた幼い子が小学校へ上がるんだという感慨と、色々お世話になった幼稚園への感謝の念とがだぶっていますね。こうした場合、短歌ではどちらかに絞って詠むとうまくゆきます。両方を詠み込むこともできますが、焦点がぼけて、先生へのお礼の歌としては弱くなるのです。(あるい […]

歌の焦点

「我が夫の病床に 見舞いし友の花束 水仙からあじさいへ」 (加奈江さん2002/01/13) 「病床の夫に会いし早朝の 窓辺に見ゆる寒椿 我と同じか頭重たげ」 (加奈江さん2002/01/13) なるほど、いずれも思いが余って、短歌になっていませんね。(内容は深刻であり、うまくまとめれば人の胸深くを打つ、いい歌になるはずです。)こういう時は、一番詠みたいことは何か、を自問し、それに焦点を当てて作歌 […]

歌の焦点

久方に独逸語辞書を開きつつ    「シュレーエ」咲ける河岸を想ふ (幸乃さん2001/11/07) 「独逸」という表記がいかにも古風ですね。意識的?それとも、辞書の表題がこうなっているのかな。なるはど、「シュレーエ」では大抵の読者は解りません。何か花の名前だということは理解できますが。色、形、大きさ、背丈など、その花の属性が解らない。これらは作品の理解を助けるばかりではなく、作品に奥行きや色を添え […]

歌の焦点

「秋の宵 吾子の手を取り道すがら電線をゆく満月を見る」 (里穂さん2001/11/01) 満月は観れば見るほど美しいものです。「電線をゆく満月」というのがユニークですね。歩みとともに、電線に平行に動くということかな。あるいは電線に切られた状態で動いているのかな。  5歳のお子さんですか。(女の子?)  改作は「電線をゆく満月」に焦点を絞ります。その方がすっきりし、この表現や満月の印象も生きるから。 […]

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