固有名詞の使いかた

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固有名詞は場合(短歌作品)によりけりです

「踏切の一時停止が楽しみに側に群れ咲く花さわやかで」(夏子) 私が時々通る踏切の側に、薄紫の紫花菜が線路に沿い花畑のように咲いています。車が一台やっと通れる道です。いつもはあまり気にもしない所ですが、今は爽やかな花を見るのが楽しみです。宜しくお願い致します。 今は各種の花の盛りどき。わたしもウオーキ...

現実感を与える固有名詞

「甘き香に惹かれて見れば葉がくれに葛の花あり石畳道」(宋見) [足柄の箱根の山に延ふ久受(くず)の引かば寄りこねしたなほなほに・万葉集] 我が家から少し登れば箱根旧道の石だたみ路にさしかかります。万葉に詠われているようにくずが延び放題に延びています。花は葉にかくれていますが甘い香りに引かれて葉を掻き分けてみますときれいな花が見えます。石畳の道はもう台風の風が吹きくずの葉を裏返して吹き抜けています。 […]

うまく使われた例

「萩寺と言へども今は境内に椿や梅がはなやかに咲く」 (渓水さん2003/03/12) 出張で日本に来られた折の作品とはいえ、最近ご投稿の短歌を拝見していますと、とてもカナダに住んでおられるとは思えません。心は日本ですね。  歌の中の仲間とは、案外カナダの人なのでしょうね。「萩寺と言へども今は」という言い方は会話や散文ならいいですが、短歌では説明的あるいは理屈っぽいと思われそうです。むつかしいところ […]

振り仮名が必要なことも

「雨雲の去りし朝日に行縢山 岩肌荒く近くに見ゆる」 (由里さん2002年11月4日) 雨のあとは山も田園も澄んで見えますね。雨が空中の塵を洗い落としてくれるからだと思います。そして、山肌などがいつもより近くに見えるわけですね。「行縢山」は「むかばきやま」と読むのですね。振り仮名が必要かもしれない。標高831メートル。大きな岸壁があり、九州でも名山のひとつ、とのこと。歌中の「岩肌」はこれですね。   […]

読む人が知らない特定の場所

「秋天に伸びる柱は万葉の人影ひそむ郡衙(ぐんが)跡にて」 (槿花さん2002年10月4日) 藤枝市御子ヶ谷の志太郡衙(郡の役所)跡。約1,200年前の奈良・平安時代に造られた駿河国志太郡の郡衙(郡役所)跡とのこと。槿花さんの添え書きで「丘陵地を背にして緑に囲まれ、万葉植物なども植えられており、森閑とした好ましい場所です」とのことですが、古代史のロマンを誘ういい場所のようですね。万葉の匂いも色濃く漂 […]

歌が締まることがある

「木曽川の緑の土手に彼岸花群れ咲き雨に打たれて紅し」 (ゆう子2002年9月29日) 「雨に打たれて紅し」はどうだろう。雨に打たれるから「紅」いわけでもないだろうし。。。しかし、緑、雨、紅、と並べて、色彩感覚を出そうとしているところはいいね。初句「木曽川の」も、実際はどの河でもいいのだろうが、固有名詞を使うことで歌が締まるということはあるね。 添削 「木曽川の土手緑濃く点々と朱の彼岸花雨にきわだつ […]

作者が使う必然性のあるとき

「赤紙を手にして見入りし藻岩山再び見るは嬉しかりとも恥なりやとも」(酔狂さん2002年8月16日) (注)藻岩山(モイワヤマと読む)は、札幌市の西にある標高500m程の山で父の生家に近く、父には幼少、青年時代を通じて馴染み深い山でした。 父の思い出話が基です。短歌に限らず、凡そ文学と称するものに固有名詞を使うことは難しいと思われます。この短歌も、藻岩山ではなく他の普通名詞を使うことは可能かもしれま […]

固有名詞と添え書き

「ガリンコ号の行く手に群なすオジロワシ鋭き眼で一点を見つむ」 (白嶺さん2003/03/08) ガリンコ号は流氷観光船で、氷をガリガリと砕いて進むからこの名があるのですね。確かに<ガリンコ号>では意味不明と感じる読者もいましょう。しかし名は体を表すの諺どおりのこの名称も捨て難いです。そうした場合は、こうした特殊な語は、歌のあとに簡潔な説明を付けるといいと思います。こうした(名がそれほど流布していな […]

旅行詠だとわかる

「早朝のチャオプラヤー川に乗合船行き交ひ初めて一日始む」 (桐子さん2001年12月1日) 結句の「始む」は変ですね。これは「はじめる」ということですから。ここは「はじまる」と言いたいのでしょう?「チャオプラヤー川」という固有名詞が効いていますね。これで旅行詠だということが分かります。 添削 「早朝のチャオプラヤー川に乗合船行き交ひそめて今日が始まる」 (桐子)

固有名詞の使いかた

「何時の日に旅は始まり何処にて旅は終わらむサロベツの野よ」 (酔狂さん2001年8月15日) 「サロベツ原野」は観光スポットになっていて、サロベツから原野を連想することは容易であろうということ、と「原野」のイメージも、まぁ、人によるイメージの違いはすくないだろうという期待を基にしていますが粋狂の勝手な思い込みかもしれません。 これは概念歌ですね。ちょっと掴み所がありません。最後のサロベツという固有 […]