今日の3首
- 2003.03.05
「時間には後戻りなし空間も先あるのみと思ふこのごろ」 「様々に蛇行をしつつ皆ひとは三月(やよひ)の時空に渦巻く彩雲」 「爪細き蹄(ひづめ)のごとき音たててキャリアウーマン廊下を闊歩す」
梧桐学が日々詠んだ歌の収納庫です。
「時間には後戻りなし空間も先あるのみと思ふこのごろ」 「様々に蛇行をしつつ皆ひとは三月(やよひ)の時空に渦巻く彩雲」 「爪細き蹄(ひづめ)のごとき音たててキャリアウーマン廊下を闊歩す」
「月面に径二十メートルの隕石が衝突したるを撮りし人あり」 「冬空を西から北へ水平に喉(のみど)の高さに白き気流あり」 「内奥にジキルとハイドを潜めもつ人とふもののあはれさを知れ」 「狂信と狂人の差のあやふさを孕みたるまま戦(いくさ)の談義」
「ひと日中多忙に暮れし夜なればPC画面に睡魔が踊る」 「この身いま熔けて大河に交はれば河口あたりは青く濁らむ」 「自我といふどうしやうもなき業(ごふ)が時をり頭を擡(もた)げ悩ます」 「平和はまづ自己からそして家庭から、さすれば国に世界に届かむ」
朝- 「前車なる後部ガラスにあざやかな虹立ち冬の日にひそむ春」 夜- 「雪がはや春雨となる今宵にて窓の油膜に灯が虹を成す」 「マリア様処女にて受胎の伝説はクローン技術の先駈けならむ」 「雨の粉闇に霧なし暗黒の宇宙にとよみてわが心(しん)鼓動す」 「肉体と精神といふ二元論ならず心は別といふ論」 「精神と心は別と言へる論ありて心のありやうを悩む」
道の端の小さな沼地に翼ゆらし休む青鷺つとこなた見る 昨夜よりやや太りたる弓の月中天にありて星寄せつけず」 『短歌とは何ぞや』と問ふその声は真摯に心を詠みきたる女(ひと) 解釈を容(い)れざる歌あり語に拠りて幾多の解釈強ふる歌あり はらわたの奥から声を絞り出し月に向かって咆えたい日もある
時くれば闇は襲ひぬ所詮わが憂鬱の瘤はわれのみのもの 今月ももう終わりだと月々に繰り返す弁は空気に似たる もう二月、信じられない感覚は心的バランスのほころびによる
「気忙(きぜは)しき歳晩の昼PCの前にてしばし目瞑(めつむ)りゐたり」 「頭(づ)の上をがうがうと過ぐる時の音 目開くればただに天井の衣魚(しみ)」 「問はれをり60年は永かりしや答へむとしてやや忸怩たる」 「街の灯に照らされ白く長々と夜空を這へり年焼く煙」 「スポーツマン一瞬の輝きに命賭くかたや漫然として吾が生はあり」
「真夜中に明滅している電球は歌を忘れたカナリアである」 「クリスマスツリーに無数の豆電球点滅してをりこの忙しさ」 「街中を人奔走す 死の先に生なきことを知るがゆゑなり」
「幾億年経ても錆びざる金剛の歌創らばや一生(ひとよ)に一首」 人皆が不老長寿で不死ならば世は太平の桃源郷か」
「秋の空かがやきゐたる東天に雲を染めつつ満月浮かぶ」 「満月がゆらめき歪んで見えるのは僕の五感が軟弱なゆえ」 -------------------- 「その郷(さと)が安全神話の日本なれば娘(こ)は上海でカバン盗られき」 「中国と日本を取り持つ縁(えにし)とぞ言挙げすれど普通のカップル」