渡り鳥に国境はなくあるものはヒマラヤさへも自由に越えゆく

ぎらぎらと陽を反射せる鏡面の闇に在るときの底（そこひ）なき黒 消滅の危機に瀕するもの多し動物のほか弱小言語も

雨水をバケツに溜めて花に遣るささやかなれど天の涙を 美味しからんと水道水より雨水を雀らに遣るバケツに溜まれば

夢にて問ふ宇宙の星の全数はサハラ砂漠の砂粒を超ゆるや 宇宙にて最遠の場所は今居る此処、球面上に居るに類似して

このところ急に冷えきて震ふるも吐く息白からずやはり秋なり

黒々と三角翼の腹見せてジェット戦闘機が低空を航（ゆ）く 黒々と三角翼の腹見せてジェット戦闘機が低空を航（ゆ）く －－－－－ 来ん冬の厳しかれどもその先の花見を思へば耐へざらめやも

古人さへずばりと言ひけり死にすれば王も生きゐる鼠に及（し）かずと 不死願ふあまたの人に古（いにしへ）も冷たく言へり生まれざるべしと 澄みわたる晩秋の空を視透かせば脳の中央に宇宙の縁（へり）映る

いつ撮りし上高地の写真か数枚が額に色あせ階段を飾る 放置すれば色褪せ進むはカラー写真のみならず人・物なべてさうなり

呆と聞くラジオが「空（くう）」とは動詞にて「変化し無に帰す」なりと説くなり プランターのシロタエギクに花水木の朱実二、三個こぼれてゐたり

屍解（しかい）とか「うなかぶす（項傾す）」など知らざりき。ほかに無数の言葉を知らず