ひたすらに美しきもののみを詠みゆかむ過去生のシミなど拭ひ取るべく
醒めながらやや目眩(めまひ)あり‘赤い雪’空こめて降る夢を見しのち
「空しい」などと嘆くは生享けた人間の贅沢なたわごとである、とも思うこの頃
世の不条理憂ふ矢先に裏庭の樹木に椋鳥悲しげに鳴く
うづたかく積める手帳よ吾が過去の詰まりゐるゆゑ哀しげに見ゆ
とどろきは我が裡にあり空想の神と現実の神とがあらそふ
行きゆきて宇宙の果(はて)へとなほ行きて至りしは自(し)が背中なりけり
たたら踏む陰の心をまつぶさに人に語らむ衝動を鎖(さ)す
昇りくる日にさきはひを覚ゆればそれにてけふも太平ならむ
この世のこと思ふ矢先に裏庭の木に悲しげに椋鳥(むくどり)鳴くも