花柄のワンピース一着部屋干しされ包まむ肉体を恋ふ風情なり
般若心経走り書きして読めざれど文字たどるがに大声にて唱ふ
伸びやかにオオキンケイギクの数本が路傍に生ひ咲き親しかりけり
朝に見る酔芙蓉おほかた白けれど酔ひ残るごと一部は赤し
過去・現在・未来を三世(さんぜ)と二文字にて“時”わしづかみする仏語(ぶつご)の深遠
地震の文字を地獄と読みて狼狽(うろた)へぬ強(あなが)ち誤読にあらずとのちに
数株を妻が植ゑたる夏菫みるみる膨らみ今は押し合ふ
ブーゲンビリア薄べに花を並べしがはらりと一花散りて吾に寄る
カラス鳴くを皆は「カー」と言ふされど我「あー」とのみ聞くは耳あしきゆゑか
長雨のふと小止みなる間を縫うてクマゼミ終(つひ)の声を絞れり