「大都上空に麗人閉づる眼のやうな繊月、そして金星が並ぶ」
「靄けむる富士川の橋渡りつつ脳裏に富士山けざやかに浮く」
「しっとりと卯の花くたしに濡れて澄む東海道の水田地帯」
「集ひては議論を交はし楽しめる学会といふは不思議な異界」
「拉致されて生(な)しし子供ら帰国すと歓喜はすれど何か違和あり」
「木曽川の河川敷埋め黄をながすオオキンケイギクに妻も染まりぬ」
「光とは真空とは何 問ふほどに吾が脳めろめろと融けてゆくなり」
「始まりの在りとふ宇宙のその先は不問に附して安らふ奴ら」
「時間さへ伸び縮みする。浦島も可能と説ける思弁の世界」
「<在る>ことに意味を求めて気狂ひし偉人のたれかれ われは凡人」