「6月ももうおしまいと溜息を衝くがとくだん焦燥はない」
「紫陽花があぢさゐ公園に蔓延し五十がほどの異種の華あふる」
「万を超すアジサイ一斉に花ひらき豪華絢爛に衰へむとす」
「くさぐさのアジサイの中に紅色の<アリラン>の名を忘れ得ずをり」
「三ヶ根山スカイラインは両側をアジサイで飾り自動車(くるま)を慰撫す」
「一つ死が大事件なる今の世にフィリピン戦死者の数を言はうか」
「やすやすと記すものかな日本軍比島での死者は五十万余と」
「ゼロ戦は最新鋭の戦闘機 襤褸の残骸さらしをれども」
「ゼロ戦の残骸に付くプロペラのひどく歪むは海打ちしゆゑ」
「鎮魂の慰霊碑建つる人々の思ひは過去にも未来にも浮游す」
「戦争はいつも現在進行形地上に人とふ鬼居る限り」