暮れはてて中部空港へ落ちてゆく旅客機の灯のちかごろ激減す

鳴きつづけゐる子雀の声やがて嗄れて奇妙な音に変はりぬ

あかり消す隣家の窓が開いていて闇の虚空の奥に目がある （新仮名）

ベクレルとかシーベルトとかつい最近まで知られざりし語 世を席捲す 先見えぬ原子炉事故の成行きの不気味な靄が日本をさいなむ 玄関に妻の飾りし白紫（はくし）なる花菖蒲じつは休耕田育ち

＜白鳥の湖＞の一節をハミングす救急サイレン通過するたび

「多（さは）に咲く紫陽花あざやかな青に顕ちあまたの雨滴をのせてきらめく 近寄れば吾が顔映る 紫陽花の花びらに乗るなべての雨滴に

屋上に立てば間近に塾灯り窓より涼風を入れて学べり 雨止みて妙にいびつな月が浮き地上の世相を不安げに見る

「見えぬ否見ゆる空気と悟りをり見上ぐれば青々と梅雨の晴れ間に 重さなど意識の外の空気にして１センチ平方に１キロの圧と

家前の国道走る車の音　ビルに反射し裏より聞こゆ 建て込めるビルに音さへ渦巻きて風も方向感覚うしなふ

プロ野球の交流戦が始まりてやれやれセ・リーグの弱さに辟易す もやる空わづかに一つ星が見えたえだえにして浮かぶ憂国