シリア： 国民（くにたみ）を守るが義務の軍隊が市民を無差別殺戮してをり －－－－－－ きさらぎにやよひの陽光ふりそそぎ草木も鳥も人も喜々とす

大仰に殷賑を極むと言ひつべく餌皿に雀らわんさと群がる ガラス戸と塀の間に陽の差し入り弾けやまざる光の玉、玉

間近なる木立に百鳥（ももどり）さへづれる いにしへ人にしばし戻らな 在るべき物あるべき場所に在ることの暮らし支ふる安心感よ

無念無想　目閉ぢ坐せば地の芯に宙（そら）の果（はたて）に緑の光

身を反らし宵の冷気をふかぶかと腹へ吸ひ込む明星もろとも 東方に雲たれこめて西方は明るく夕べと誤る起抜け

狭き部屋の左下より右上へ寒き気流あり気の所為（せゐ）ならず ひそやかに冷風うごき身の裡と外を通ひて部屋に蟠る 戸を開くれば冷気が頬をたたき来て空に二、三の星がまたたく

瓦すでに古びたれども寺の屋根の一半まぶしく日にかがやけり

土の固さ空の重さの狭間（はざま）にて喘ぎ喘ぎて人々は生く

恩寵に貰ひし命の悲しかる筈のなけれど悲しきが多く 儚しはまさか墓無しとは思はねど無縁墓石ら一所に積まる

尼寺の軒より下がる氷柱（つらら）見て幾年ぶりぞとデジカメで撮る 迷ひなく鋭利にとがる氷柱（つらら）のさき青みを帯びて水の玉輝る