灼熱の砂漠や暗黒の深海にも生き物は居る　生命（いのち）は靱し 三十余億年の生命の歴史の尊さも狂へばたちまち死にする人あり 切り刻まれし数だけの個体に再生するプラナリアこそ進化の頂点では？ 不死身：

交差路の一角占めて群生なす背高泡立草を久しく気にする 徒に漫に怡しく生い茂る背高泡立草を見上げては懼る 野生とは生くるに厳しと思ひしに群れ立つ背高泡立草は別 たとへばパリは北海道より高緯度と言へば驚く妻との夕餉

朝まだき豪雨がはげしく地をたたくされど風鈴は息をひそめて 受精卵が細胞分裂繰りかへし機能分化し人間と成る いくそたび受精卵が無意に分裂せしのみならば君はただの肉塊

卑弥呼とは神功皇后のことならん　と誰かが言ひしや言はざりしや 隣国の一党独裁をこきおろす政党が選挙で圧勝せりけり 蒸し暑き大暑の日なりあらためて古人の知恵の深きを思ふ

ヘリの音が頭上をよぎる須臾の間をＢＳ画面がちらつくを見き 最期には母を恋ふとう亡母（はは）もまたその母恋ひしと思へば安し

肉体の尖端までもが汗をかく生真面目さありてわが身保たる ナイターとかフロントガラスやハンドルとか和製英語を生む和魂よし

名古屋・久屋大通にて 夕づけど暖気去らざる公園をビアガーデン求めて妻と歩める おのもおのも集ひきたれるひとびとに連帯感生るる過程を見たり ビアガーデンの野外ステージよりドイツの曲激しく流れ人ら和しゆく お互ひを知らぬ人ら […]

米中の政府高官が日本語で35分間会話せしとふ 家前の車道の騒音がビル壁に反射し裏手より聞こゆるに慣る 絶え間なく鉄の風鈴鳴りひびき雨の季節の鬱を碧くす

粉（こな）となり仏壇に散りぼふ紫陽花の花の愛（かな）しさ萼を残して 空（くう）に空（くう）無に無を重ね心経は数限りなく唱へられ来し アメリカに盗聴されて欧州は怒り日本は沈黙か、ああ情けなし

同年の友の皺顔つくづくと君も人の子、我も人の子 アガパンサス今年も咲けどいくつかは形くづれて憐れを誘ふ 場所塞ぎ仏壇に大きな紫陽花二花　わが娘（こ）は時々異な事をする