暮れ方にほんの二、三片舞ひし雪の夜が明け数センチ積もりゐにけり

湧き出でて縁（へり）が強風にほつれつつ霧となり天を覆ひゆく雲

定まらぬ天候の折の雲は花 変幻自在に空を飾れる

目覚め際とほき日常の情景へ引きずり込まるる幻覚に耐ふ

歩道橋のなかほどに立ち望みしが伊吹山（いぶき）雪嶺は雲に閉ざさる

朝鮮の世宗大王と明（みん）の航海王・鄭和が同時代人と故なく気付く

今は亡き人らは迫真の演技にて古き映画に魂魄を刻す ことごとく故人の人らが演じゐる古き映画は魂（たま）の影絵か

ひしめきて縁（へり）が真白にかがやく在り黒きもありて冬の雲行く

草書では「闇」と「響」はほぼ同じ。闇にいんいんと響くは銅鑼か

思へらく原初の宇宙より数知れぬ奇跡を重ねて今の生命（いのち）在り