漱石の <こころ> を朗読にて聴くに「わたし」とふ発語あまりに多し
思ほへず東海林太郎(しやうじたろう)唱ふ <麦と兵隊> 流れきて悲し旧日本軍
ほとほとに野生を知りぬ餌やれど我をるかぎり集はぬ雀ら
響きよき量子コンピュータとふ語の魔力が現実のものとなる日が待たるる
何ごとか隣家の犬が吠えている脅しにもならぬ可愛い声で
般若心経を毎朝浄書するといふ短歌(うた)あり我は走り書きするに
姿こそ見えねいくたの雀たち木犀の葉叢にまぎれて騒ぐ
忘れざる五歳のときの疎開行、不発弾の臭ひいまも鮮明
真直ぐなる散歩道横切る黒猫のきのふは右よりけふ左より
いふなれば暖気と寒気のせめぎ合ひ冬から春へ大気うごめく