固有名詞の使いかた
「何時の日に旅は始まり何処にて旅は終わらむサロベツの野よ」 (酔狂さん2001年8月15日)
「サロベツ原野」は観光スポットになっていて、サロベツから原野を連想することは容易であろうということ、と「原野」のイメージも、まぁ、人によるイメージの違いはすくないだろうという期待を基にしていますが粋狂の勝手な思い込みかもしれません。
これは概念歌ですね。ちょっと掴み所がありません。最後のサロベツという固有名詞がそれほど効いていないのが残念です。その具体名が、それより前の曖昧表現に負けてしまっているわけです。まず、何を詠みたいのか、ある程度整理する必要がありますね。「サロベツの野」で「人生」を表現しているのか・・・。「人は皆、人生という舞台で、いづくより来たり、何を行い、いづくへ去るのか」と詠みたいのですか。もう少し気持ちを整理され、詠み直されてはどうでしょうか。
固有名詞を歌に取り込むときに注意すべきことはどのようなものがあるでしょうか
固有名詞を使うことは、読者に視点を絞らせて作歌の意図を知らしめるのに役立ちます。曖昧さがそれにより払拭されるという効果がある。季節や時刻など具体的なものを入れたりするのと同様な効果です。逆に、一般性を犠牲にするので、詠む意図に応じて使うか否かを決めます。もちろん、固有名詞の音感も大事ですね。詩語として使うという基本を忘れてはなりません。また、よく知られた固有名詞であれば、それに付随する一般通念があるということを考慮せねばなりませんね。一方、全く知られていない固有名詞もしばしば使われます。これには一般通念は付随しないので、その呪縛から解放されている、という有利な面がある一方、知られていないが故に、何故わざわざ無名の名前を使うかの意図がはっきりしないと失敗します。固有名詞自体に含意があるとか、新鮮なイメージを生み、また響きを持つとか、これを使うことで歌全体が引き締まる効果があるとか、作者固有の捨て難い愛着があるとか、といったかなり明確な理由がなくてはなりませんね。