ひらめきて金魚ら時に襲ひ合ふを至上の美とさへ観るは邪心か
意識の奥、そのまた奥の奥の奥、鈍く青白き命の影あり
半世紀余も前のことなれど訪ふたびに母は吾が消ゆるまで見送りましき
「モーツアルトはベートーヴェンとは大違ひなだらかに始まりなだらかに終る」(あおぎり)
大自然に比すれば余りに小さくて我らチマチマと生くそれも必死に
ショパンの曲が書斎を満たしひびきゐるピアノの美音の極致なりけり
かしましく近くの公園で蝉たちが命つくしてこの世を謳歌す
いちめんに空に張りたる雲の膜しろじろとしてシミ一つなし
赤き花朽ちしあとにて純白のユリの花あまた裏庭に明(あ)かる
雷鳴にドアがガタガタと共振す雷(いかづち)が震はす空気の厚み