(新仮名): こまごまと物持つゆえの物忘れあれ忘れこれ忘れ妻の特技に
落暉つつむ雲の断片の周縁が黄金(わうごん)に燃えわれ衝迫す
ふと気付くあるかなきかの風に鳴る日向の風鈴の幽かなる翳
ひとたびは途絶えし蝉声ふたたびを庭木に響くきびしき残暑に
あなどりて窓辺に坐しゐておどろかさる突然頭上で雷鳴とどろき
群雲を裂きてひろげて光射し暗き人界に生気を惹起す
ささやかな幸かな十日留守せしにやがて雀ら庭に戻り来
地震(なゐ)・津波に怯ゆるわれら つくづくと人間は地表に張り付きて生く
十日ほど留守して憂ふ炎天下に紫陽花幾本生き延びたるや
晴れながら星見えぬ夜空に少年の日の天の川はめこめてをり