音はせで尼寺の屋根を濡らしゐる雨に虫らの沈黙の闇
秋の夜に立つは虫の音のみならず野獣に紛ふカラスらの声
目を閉ぢて沈思黙考けんこんも三世(さんぜ)のことも在りて無きごと
裏庭の梢のシルエットそよぎゐてビルのした闇に虫の音しきり
迷ひなく音たてギンナン落ちつげりがつちり受け止むる大地あればこそ
キーン、キーン ガラスが蛇口に当たる音の胸に突き刺さる 生き返るべし
昼夜とほし一定リズムと音色(ねいろ)にて鳴く虫が居る あと幾日もつか
絶え間なく西より工事の音聞こえ現場は其方(そなた)と思へば東なり
夜を徹しカラスらが鳴くともすると我が外なるか裡なるかを知らず
歳のせい?否、本能の生命(いのち)への賛美と思へ涙もろきは