「崩せし」と「崩しし」

「寒の入り体調崩せし吾娘のため七草粥をコトコト炊きをり」(泰女さん 2004年1月7日

添削:
「寒に入り体調崩しし吾娘のため七草粥をコトコト炊きをり」(泰女さん)

ここに「崩せし」ではなく「崩しし」としたのは、過去(回想)の助動詞「き」は、サ変動詞「す」には終止形「き」がその連用形「し」に付き、連体形「し」・已然形「しか」はその未然形「せ」に付くので、例えば「運動せし(時、人、物など)」「寄付せしか(ば)」などとなるのですが、「崩す」のような四段活用動詞には連用形「崩し」につくからです。ですから「崩せし」ではなく「崩しし」です。本当に接続がややこしい助動詞です。以前、「しし」は間違いで「せし」です、と申したことがありますが、説明が不完全でした。「しし」でいい時もあるのです。  なお、「き」の変化は「(せ)・×・き・し・しか・×」で、実質的に終止形、連体形、已然形しかありません。サ変動詞は「為(す)」で、「せ、し、す、する、すれ、せよ」と変化します(それぞれ、未然、連用、終止、連体、已然、命令形、です)。四段の動詞例えば「崩す」は「崩さ(ず)、崩し(て)、崩す、崩す(時、物など)、崩せ(ば)、崩せ」と変化。語尾が四種に変化していますね。(サ変と比較して下さい) ついでに、カ変動詞「来(く)」ですが、語幹が「こ、き、く、くる、くれ、こ」と変化します。これと過去(回想)の助動詞「き」との関係ですが、「き」(終止形)はカ変には全く付かず、連体形(し)・已然形(しか)がそれぞれ「来」の未然形「こ」・連用形「き」に付きます。ですから、「来し」をよく「きし」と読ませていますが、これは「し」が動詞の連用形に付くという先入観からのミスで、「こし」と読むのが正しいわけです。已然形では「来しか(ば)」は「きしか(ば)」と読むのが正しいですね。
 このあたりは、文語文法でも最もややこしい部分の一つでしょう。