きりぎしに向かって進む鋸歯状の波列つぎつぎ打ちかへさるる
熊野灘 躍る濤、濤、また濤の間隙衝きてぱっとたひらなり
薄日差す朝にときをり雪が舞ひ日に入りながらきらめきやまず
火照りたる耳朶のあたりに卵(ラン)ほどの空洞ありてふるへ止まずも
露しげき玉紫陽花は楊貴妃の愛語に潤む乳房なりけり
ひとつ生(ヨ)の黄昏に在る心地にて窓打つ雨の雫視てをり
青白き氷塊ひとつ浮けしよりコップ素早く曇りゆく見つ
霧しまく高速道路を行くごとき不可知論の先に吾が生ありや
炎天に膚(ハダヱ)灼かれて歩みつつ英雄虚像論の空しさ思ふ
ジェット機の衝撃音にうち震ふこの空間も秋の気配す
滾々と白き雲より湧く雨に生命のきざし観るべかりけり
白浜の玉砂利を越すさざ波にデモンも神も声ひそめたり
頭(ヅ)の上に太陽光がうづまけば掌(テ)に汗浮きて故なく不安
風そよぐ河原に立てば昇りゆく雲雀の鋭声(トゴヱ)が児らに降りかかる
君見ずや平均台に脚開くシャポシニコワの愁ある眸を
白々と開脚しつつ外(ト)つ国の少女は碧眼に海湛へたる
雨季なればこの美少女の幼な乳(ヂ)も汗ばみをらむ鈍行電車
アメリカの大陸に吹く旋毛風樹間をくぐり地鳴りおこせり
闇の風樹木ゆるがし吹き猛りいざよふ音や酩酊ふかし
ビル陰よりグリーンベルトに出でしはな ザ・キャピタルがうちつけに見ゆ
新芽ふく榛の大樹の細枝に小栗鼠屋根より飛び移りたり
裸心にてカメラの前に脚開くほとけのをみなこの世にはゐる
単純に且つ精細に図られしモンドリアンの色面分割
愁嘆のサーカス家族描きたる青の時代のピカソ親しも
ただざまに光と空気描きたるフェルメール三点真珠のごとし
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