生活詠

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2006年4月10日

  • 2006.04.10

咲けば散るほかなき桜花(はな)を雨打ちて道一面にびっしりと撒く 雨桜観ての帰り路街灯を透かして傘に花びら幾片 傘に享けし多(さは)なる花弁を留守居せし妻にみやげと言へば微笑む

2006年4月8日

  • 2006.04.08

一キロもある両岸の桜並木咲きゆく順はランダムにして 今日ひと日強風あれど川沿ひの桜並木は満開を誇る 重たげに枝撓ませて満開の桜は幹のどっしりと構ふ 群がれる花びら貫く枝枝の存在感よ夜桜は殊に 下方より桜花照らされ純白の雲の上辺(うはべ)は闇に溶け入る

2006年4月4日

  • 2006.04.04

春祭の喧騒もよし川岸の桜花(はな)はあくまで静かに咲(ひら)く 祭とて騒ぐ人らの悲哀知れ桜は静かに咲くべかりける 桜の川つねには水なし流すのは花どきのみとは呆るる市政 冷ゆる日が続き夜毎に来て観るにじわりじわりと桜花(はな)ひらきゆく なけなしの馬駆り集め春祭を賑はす大人の健気なる知恵 馬見るは映像のみと慣れて来ていま目の前の春駒を撮る

2006年3月28日

  • 2006.03.28

完成後二ヶ月なるに灯の点る部屋なき裏のビルは何棲む つくづくと生体組織の精妙さ思ひて進化論を疑ふこのごろ 夜十時戸口に置かるる自動車は吾娘(あこ)居る証、見れば安堵す

2006年3月12日

  • 2006.03.12

路地奥にいくつもありて廃屋の破(や)れ戸より見ゆ床板の反り 震度4襲はば倒れむ老朽の民家点在す裏道行けば 白々と侘助ツバキがさはに咲く地面にころころ落ちゐるも在り これまでに”Gone with the wind”幾たび観しスカーレットとレッドになりて

2006年3月6日

  • 2006.03.06

しづまれる競輪場に照明塔闇空を背にくらぐらと立つ 競輪の開催中ゆゑ夜さへも怒号と喧騒の余韻が渦巻く ギャンブルは違法と言ひつつ公営の競馬、競輪よたよた続く 塀の上に鉄条網を張り巡らす邸宅あはれ処々に蜘蛛の巣 暗き道歩み来て遭ふかうかうと照れる<世界一安値>の看板

2006年3月4日

  • 2006.03.04

冬の日が新築ビルにやすやすと隠されてゆく 靡けこのビル (ご参考:『・・・妹(いも)が門(かど)見む靡けこの山』(柿本人麻呂;万葉集巻2・131)) 数知れぬ鋭き刃(やいば)に鎧ひたる邸宅ありて闇に鎮座す 生享けしものの悲哀を纏ふがにするどき鉄柵巡らす邸宅 裏町のスナック街へと迷ひ入り優しき声の客引きに会ふ つくづくとこの歳にして思へるは天下無双の妻を得し幸

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