サ行四段活用の動詞につく過去(回想)の助動詞「き」

「宝石を凌ぐ輝き籠りをりポンペイの医師遺しし器具に」(紗柚)
ポンペイ展に行ってきました。紀元一世紀のものとは思えない遺品の数々に驚かされました。一瞬にして平和で豊かな暮らしを奪ってしまった災害、どれほど恐ろしかったことでしょう。人々が避難し息絶えた所から多くの財宝が出てきたということですが、医師と思われる人の傍らで見つけられた医療器具の一式が展示されていました。メスやピンセッなど現代の物と変わりがありません。技術の高さに驚くとともに想像を絶する恐怖の中一人でも多くの被災者の命を救おうとした医師の思いと存在を伝えるこれらの器具の前からしばらく離れられませんでした。「遺しし」とするか「遺せし」とするか迷いました。勉強不足で申し訳ありません。御指導よろしくお願いいたします。

ナポリに近いポンペイ(遺跡)は、世界文化遺産の一つで、紀元一世紀も押し詰まるころ、近くの火山(ヴェスヴィオ山)の大噴火に伴う大量の火山灰で埋まってしまった街ですね(もちろん大勢の人々も)。今からおおよそ200年くらい前から発掘が始まり、今ではすっかりその全貌が明らかにされて、観光スポットになっていますが。そのポンペイにまつわる展覧会が開かれているのですね。それにしても医療器具が遺されていて、それが現在のものと変らないというのは驚きです。なお「遺す」は(文語でいって)サ行四段活用の動詞ですから、過去(回想)の助動詞「き」はその連用形につきますね。「し」は「き」の連体形ですが。従って、「遺しし(器具)」でいいわけです。大抵の動詞に対しては連用形に付くと考えていいのですが、例外があるのです。「せし」となるのはサ行変格活用動詞「す」に付くときで、「き」の連体形と已然形「し」「しか」は「す」の未然形に付くので「せし」「せしか」となるわけです。(ただし、終止形「き」は、「す」の連用形に付き「しき」となるからややこしいです)。カ行変格活用の「来」(「く」・・終止形)にも例外的な付き方をするから要注意ですね。ところで、お作で「輝き籠りをり」という表現はどうでしょうかね。ここでは文字通りの(光り輝くの)輝きのことですから、普通は輝きが籠もるとは言わないですね?比喩的な「輝き」、たとえば若さが輝くとか、輝く言葉とかの「輝き」なら、言わないことはないでしょうが。それとも(時代が古いから)実際は光り輝いてはおらず、比喩的に「輝き」と言われた?ここでは一応、前のように考えて添削しておきます。
添削:
「宝石を凌ぐ輝きみせてをりポンペイの医師の遺しし器具は」(紗柚)