「遠街も山も朦朧　空さへも霞のやうな雲に覆はる」（梧桐）

「この夕は日没早し西山を高く覆ひて雲の縁光る」（梧桐）

「たはむれに触るるピアノの鍵盤の冷えやはらぎて指よく動く」（梧桐）

「春を感じ発する言葉は新しく響けど年年おなじからまし」（梧桐）

「万葉歌に“多麻之比（たましひ）”とふ語を見てなぜか脳髄の襞（ひだ）が一瞬そよぐ」（梧桐）

「春先に異常な高温と靄ふかく政治・経済の真相を隠す」（梧桐）

「大量難民の番組観てゐてあまりにも気分が暗くなり切りてしまへり」（梧桐）


「南沙にて米艦隊が中国を挑発してをり戦端ぎりぎりに」（梧桐）

「小粒なるエサを雀らに出しおくに夫婦雉鳩がまたも平らぐ」（梧桐）

「温（ぬく）かりき昼間の衣服のままに居てくさめを連発し夜更けと気付く」（梧桐）

「ダイナミズムが宇宙の本質と物理学（ぶつり）は説く。古人はそれを無常と言ひき」（梧桐）

「都合良き気象用語もあるものなり３月１日は寒の戻りと」（梧桐）

「私用にはとても使ひ切れざる富たくはへ更に求むる人ら」（梧桐）

「余寒とふ語感にまさり冷ゆる宵、妻居るとわかり階下ほの温（ぬく）し」（梧桐）

「夕焼の朱の眩暈よ英雄にあらざれど我も“色”を好むも」（梧桐）

「生きてゐる証なれどもつくづくと二十の爪の伸ぶる速さよ」（梧桐）

「七十億とふ人口余りに多けれど一人一人が地球（ほし）より重し」（梧桐）

（梧桐）：

「あらゆる物が繋がれゐること必然なり。すべてが“一（いつ）”より派生せしなれば」

「石塊（いしくれ）にも仏性ありとはよくぞ言ひき。なべてが“一（いつ）”より派生せしなれば」

「この宇宙も“一（いつ）”より生（あ）れて今に至る。“原初”は感覚で捉ふるほかなし」

「蒼く澄む冬の空かな思へらく宇宙よりかほどは美麗に見えまい」（梧桐）

「無に等しき素粒子群の遍歴のはての“命”と思へばこそばゆし」（梧桐）

「極微なる素粒子群の遍歴のはての集積ぞ“もの”悉皆は」（梧桐）

「いかに異形に見ゆるとしても山脈は必然の形に波打ち聳ゆ」（梧桐）

「いかに奇形なりと言へども雲は皆あるべき姿に浮かびゐるなり」（梧桐）