三月の短歌


師の死 三月一日
中学1年と3年の時の担任だった先生が亡くなられた・・・。
英語の先生だった。
「クラス会計画せんと思ひゐしに師は花も見ず身罷られたり 」
「在りし日の英語の授業もはかなかりあまりに遠き師のみ姿や 」
「都合にて日本の歴史も習ひしことむしろ記憶は英語より在る 」
「喜寿にして逝きましし師は中学校英語教師を全うされぬ 」
「棺の中くさぐさの花にうづもるる蝋人形のごとき師の顔 」
「棺中の恩師は石なりひややかに最後に往きつく先教へらる 」
「霊柩車に乗せんとするに師の棺ぐらりと傾きしばしあらがふ 」
「焼き場へと師の霊柩車は消えゆけりむせぶがごとき霧雨の中」 
 
    三月二日
「荒田はや稲株の列取り囲み緑うっすらけぶり来て春 」
「自動車の絶えぬ路傍にたくましく雑草(あらくさ)ぐいぐい緑を伸ばす 」
「春氷雨しづかなる午後パソコンと凛(さむ)き無言の会話続けぬ 」
「パソコンはただの機械と知りながら、考えてるな、と思ふことあり 」


     三月五日
「時間には後戻りなし空間も先あるのみと思ふこのごろ 」
「様々に蛇行をしつつ皆ひとは三月(やよひ)の時空に渦巻く彩雲 」
「爪細き蹄(ひづめ)のごとき音たててキャリアウーマン廊下を闊歩す 」
     三月七日
「空白く春の雨撒き 梅林の白き花には細雨が似合ふ 」
「奇数番交響曲の間(あひ)に置くベートーヴェンの静の面よし 」
「交響曲第四番に意外なるベートーヴェンの幽邃(いうすい)がある 」
「いつしかも外は暗闇しゅわしゅわと音とも言へぬ微音満ちたり 」
「前照灯やうやく届く闇のなか猫か二つの目が光り過(よ)ぐ 」
「雨のあと夜空低くを奔る雲しらじらとして繊月隠す 」
「ビルの間(ま)に誰(た)が忘れけんブーメラン型三日月は殊に親しく 」
「繊細に鋭く曲がる三日月に何を託して人は逝きしや 」   
      三月九日
「間近なる裸木の伸ばす無数の枝 落暉(らっき)に黒々と輝きゐたり 」
「夜の園に白々と灯に照らされて糸杉は鋭(と)く星空を射す 」
「外灯にメタコイアはしらじらと円錐形に裸を晒す 」

立花るつさんへ:
「夫婦といふ愛の形はあいまいで愛が夫婦の形を作る 」
     三月十日
「ああ山と喜ぶ妻がうれしくて犬山目指す食後のドライブ 」
「寒風に御嶽山(おんたけさん)の白銀(しろがね)がさらに磨かれ山間(やまあひ)に光(て)る 」
「白光(しろひか)る御嶽山と犬山城、大河も併せ眼底に収む 」
「妻と来し春の木曽川水寒く犬山城をつぶさに映す 」
「犬山城ー小山の上の木造の小振りの城にてくきやかな白 」
「堰かれては木曽川の水おとされて白濁しつつ緑(あを)く躍れる 」
 
      三月十四日
「山脈のさらに向かふに雪被(かづ)きπ(パイ)の視界に中央アルプス 」
【注:π(パイ)の視界=180度の視界 】
「パノラマに御嶽山(おんたけさん)あり乗鞍岳、伊吹山また御在所岳あり 」
「目前(まなさき)の山肌おほひしんしんと降(くだ)るは雪とも雲とも分かず」


      三月十六日

「朝毎に窓から覗く外景の日常性とふゆるぎなきもの 」      
           三月十七日

「思ふことさまざまにして背後より昇る円月に押されつつ歩む 」
「パソコンを使ひこなせる妻をりて吾がHPもいつしか膨む 」
「電話にて雨かと妻に問ふ雨は一昨日の記憶とも思ふ 」
「中庭の池にて水を撥ぬる魚(うを)と広がる波紋が灯火にキララ 」
「拳(こぶし)上げて威嚇をしつつ武装解除イラクに迫る 爆撃近し 」
「期末にて事はしづかに静かに進みマグマは胸の奥に渦成す 」
     
     三月二十三日

「風もなき春の川辺を妻と行き染井吉野の蕾に手触(たふ)る 」
「川沿ひに三色スミレの花さかる水面(みなも)奔(はし)るは白鷺の影 」
「夫婦鴨ぬるむ川面に睦みをり二つ波紋を交はらせつつ 」
「莟(つぼ)みゆく桜並木の間(あはひ)にて匂ひを起こす沈丁花あり 」
「蒼穹(さうきゅう)に花を吹雪かせ立つ風の怒涛となりて戦火鎮めよ 」
      三月二十九日

「紫と白の木蓮並び咲き白から先にこぼれ落ちつつ 」
「中東より来しとふ黄砂にあはあはと山川草木かすみて羞(やさ)し 」
「春深むほどに黄砂の襲ひきて海山おほふ世の不透明感 」
「しづかなる土曜の夕べも怒(いか)れるや日がビル街を血の色に塗る 」
「わが里は目と鼻の先 遙かなるふるさとを持つ妻ふと妬む 」      
    
       三月三十日

「渺々(びゃうびゃう)と黄砂たなびく空籠めて彼岸桜が薄く紅刷く 」
「朦朧と霞む美空を切り裂きて雲雀するどくたちのぼりゆく 」
「春の午後 河原に沿へる公園に家族と犬を連れし人々 」
「若きらは春に浮かれてまだ寒き木曽川に入り飛沫上げをり 」
「日溜りに〈さくらまつり 〉の横幕を掲げ太鼓をうち鳴らすなり 」
「どどどどど太鼓の乱打空高く響けばあたかも空爆の音 」

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